こんばんは
私は人の顔と名前を覚えるのが得意なのですが、そのおかげか昔から歴史に興味を惹かれていました。漫画のようなことをした人が、実際に存在していた、そう考えると下手な創作作品より歴史は奥深く面白いものだと感じます。
今回読んだのは古代ローマが舞台の小説です。
第2次ポエニ戦争を舞台として描かれた小説で、「ハンニバル戦争」なんて名前ですが主人公は「ハンニバル」ではなく「スキピオ」というローマ人です。
あらすじ
カンネーの戦い
紀元前220年ごろ、ローマ名家の1つコルネリウス家のスキピオは、執政官である父スキピオ(スキピオと同名の父)から戦争への出陣を命じられます。
このときスキピオは17歳でした。
初陣を勝利で飾り、その次は窮地の父を救うなど活躍をしたスキピオでしたが、ローマ全体としてみればカルタゴの英雄ハンニバルにしてやられる展開が続いていました。
ハンニバルは北アフリカのカルタゴからイベリア、ガリア、アルプス山脈を超えイタリアまで遠征しているにもかかわらず、なぜか地元のローマ軍相手に常に有利に立ち回るのです。
スキピオは様々な戦いに出陣しますが、そのことごとで大敗し、ついには2倍の兵力差があるにも関わらずローマ軍がほぼ全滅させられる「カンナエ(カンネー)の戦い」を経験します。
この戦いでスキピオは自身の義父をなくし、スキピオ自身もハンニバルという的に完全に萎縮してしまうのです。
スキピオの覚醒
数年後、陥落するかに見えたローマはまだ残っていました。
ローマの剣と呼ばれたマルケルス、ローマの盾と呼ばれたファビウス両名の活躍でハンニバルの侵攻を防いでいたのです。
その間スキピオはハンニバルへの恐怖とカンネーの記憶から食事が喉を通らず、ひたすらにハンニバルを倒すための勉強に傾倒し戦場から離れる生活を送ります。
ある日、ローマ市民が騒ぎ始めました。
「ハンニバル・アド・ポスタル(ハンニバルがもう門まで来ている)」
ハンニバルとの戦いに参じた将校は軒並み亡くなっていましたが、スキピオは3度もハンニバルと戦い生き残った人間でした。そのことを市民は知っていたので、スキピオに門にいるのがハンニバルかどうかを確かめてほしいと頼まれます。
渋々門を見たスキピオは確信します、門にいるのはハンニバルだと。
ハンニバルもただ門に来るだけでなく、スキピオめがけて槍を投げ込みます。
このやり取りでスキピオは恐怖ではなく1つの天啓を授かるのです。それは今まで自身が求めてきたハンニバルを倒すには?に答えるものでした。
それからスキピオはハンニバルを倒すために、ハンニバル自身を研究し始めました。
父の死
更に数年が経ったとき、スキピオのもとに忠臣からある知らせが届けられます。
父スキピオ、叔父がイベリアにて戦死したとの報告でした。両名はイベリア方面でハンニバルの弟ハスドルバルと戦っていましたが、それぞれが敗北したというのです。
スキピオは父のあとを次イベリア方面の将軍となります。
父や叔父のかたきを討つように、自身がハンニバルから学んだ方法でカルタゴ軍を次々と打ち破ります。
その活躍が認められ、更に数年後スキピオは執政官として任命されたのです。
ザマの戦い
執政官としてスキピオはシキリア方面の将軍の任を受けます。
スキピオの狙いは決まっていました。シキリアからカルタゴ本国を叩き、ハンニバルをイタリアから追い出すのです。
そして最後の決戦、「ザマの戦い」に続くのです。
結果はローマ軍の勝利しました、ハンニバル側の条件がいくつか整っていなかったものの、スキピオはハンニバルから学んだ方法でカルタゴ軍を打ち破ったのでした。
その後
時は飛んで数十年後、スキピオは辺境地でハンニバルの死を知ります。
カルタゴはローマ軍に敗北した後にローマと和睦し、多大な賠償金や制約を課せられます。そんな中ハンニバルはその卓越した才を発揮し、数年でカルタゴが賠償金を払い終えるように政策を整えてしまったのです。
そんなカルタゴとハンニバルを驚異に感じたローマは徹底的にハンニバルを追い詰め、ハンニバルはとうとう亡命先で服毒自殺をするのでした。
対するスキピオも戦勝後は英雄として自由な生活を送るのではなく、過去の行動に文句をつけられ失脚させられてしまったのでした。カルタゴを救ったハンニバル、ローマを救ったスキピオ、国を救った英雄であるのに、結局は国から見放されスキピオは自身のやり遂げたこと、ポエニ戦争そのものに意味がなかったことを悟り、ハンニバルが亡くなった同年に息を引き取るのでした。
感想
私は歴史が元から好きだったということもありますが、著者の文章力もあってか500P超を一気に読んでしまいました。
この作品はスキピオの第2次ポエニ戦争初陣からスキピオの死まで描かれていますが、その中でスキピオが成長していく姿、スキピオの感情の変化などがよく描かれています。
ただの自信家だったスキピオが度重なる敗戦を経験し大きな挫折をします。ただ、本当に信じられる忠臣や妻、そしてハンニバルを倒すという大きな目標のおかげで腐ることなく(条件こそあれど)ハンニバルに勝利するという栄光を掴み取ります。そして最後には失意のまま亡くなるのです。
読み終える時点でスキピオに感情移入をしていたので、ローマ帝国に対する失望が私も大きなものとなっていました。
また、語られることは少ないものの大きなインパクトを残したハンニバルですが、彼も敗北後のカルタゴを救うもののカルタゴ本国に守ってもらえず絶望して自死を選びます。戦争にも長け、政治力もありましたが、その才能をローマが黙っていられなかったんですね。
ただ、両国元老院の立場で考えると、例えばローマであればスキピオは勝ったから良いものの、だいぶ強引な手を使っていることもあり、カルタゴであればハンニバルがいることで自国が完全に危うくなり、ともに自国を守るという面で見ると仕方ないのかなと考えられる行動をとっていました。自分の立場を守るというのもあると思いますが、国を守る立場の人は大きなリスクを取れないものです。
スキピオ、ハンニバル、両国元老院と様々な登場人物の目線で見ると本作はより楽しめるのではないでしょうか?
最後にハンニバル、スキピオ両名から学んだことを書いて終わりたいと思います。
・何か目標となる人がいるとき、その目標を真似るのが最も目標に近づける
・徹底的に情報収集し、自分が場の主導権を握ること
おまけ(わからなかった言葉、、、多すぎる・・)
フレスコ:絵画技法の1つで、壁に漆喰を塗り、その漆喰が「フレスコ(新鮮)」である状態の間に水または石灰水で溶いた顔料で描く。やり直しがきかないが、保存に適した方法でもある。
余人:当事者以外の人。他人。「余人をもって代えがたい」は、その人でないと任せられないという言い回し。
耳目:耳と目・注目。
現金にも:打算的、ちゃっかり。
わけても:その中でも特に、とりわけ。
通商民族:外国と商取引を行うことで発展する民族?推測。
斟酌:相手の事情や心情をくみ取ること。くみ取って手加減すること。
テーベのエパミノンダス:古代ギリシアの将軍
当座:その場の。即座。しばらくの間。
責め苦:精神的、肉体的に責めさいなまれる苦しみ
奇貨(きか):珍しい品物。利用すればい思わぬ利益を得られそうな事柄・機会。
土木国家:ぱっと調べても出ないですが、文字から土木を中心に発達した国家?と推測
忽然:字と屋ものが急に現れたり消えたりする様子。
地金(じがね):メッキの下地や加工の材料となる金属。生まれつきの性質(悪いときに使う)。
誹り(そしり)を免れない:非難されても仕方がない
さしも:そんなにも。それほど。
徴発:人の所有するものを強制的に獲り建てること。軍需物質などを人民から集めること
逸る:勇み立つ。焦る。調子に乗る。
痰を切り:すっきりするような威勢の良い言葉を言う
質す(ただす):質問する。不明なことがらを訪ねて質問する。
指呼:指さして呼ぶこと。指さしてそれということ。「指呼の間」は呼べば答えが返るほど近い距離のことを言う。
戦象:軍事用に使われた象。敵を踏みつぶしたり、敵の戦列を破砕するために使われた。本作では数十頭の象がアルプス越えに連れていかれていた。
年嵩:年齢がほかの人より高いこと。またその人。
科(シナ):シナノキの異名。
同道:連れたっていくこと。連れていくこと。
猫脚:家具の脚の株を内側に向けて湾曲させたデザインのこと
草木模様:草や木の葉を模した模様。
意匠:絵画・詩文や催し物で工夫をめぐらすこと
落手:手紙や品物を手に入れること。囲碁や将棋の悪手。
普請:家を建築したり修理したりすること。道・橋・水路・堤防などの土木工事。
湛える:液体をいっぱいにする。ある表情を浮かべる
衝く:勢い良く刺したり、当てたりする
束柴:小さな雑木を束ねたもの。薪として使ったりする。
肩を竦める(すく):肩を縮めるしぐさ。恐れ入った、あきれた、不本意だ、などの気持ちを表す。
差配:取り扱うこと、世話すること、指図すること。
不文律:お互いに暗黙の裡に守られている決まり
心胆:肝っ玉、心。
訓告:戒めを告げること。公務員の処分の1つ。
居直る:座りなおして姿勢を正す。急に態度を変える。
またぞろ(又候):またまた、またしても。好ましくない物事に使う
灌木:丈が低く、幹が発達しない木本植物。ツツジなど。
睥睨:にらみつけて勢いを示すこと。横目でジロっとにらみつけること。
有閑夫人:時間、経済的に余裕がある、趣味や娯楽などで気ままに暮らす夫人
気を揉む:いろいろと心配してイライラする。
山査子:サモモとも。栄養価に優れた果物。
父祖:父と祖父。代々の先祖。
壮年:社会的に重責を担う働き盛りの時期
固辞:勧められたことを受けず断ること。「辞退」より意思が固い
暗澹(あんたん):うす暗くはっきりしないさま
村落:人口や家屋の密度が小さい集落
宥和的:対立する相手を寛大に扱って、仲良くすること
濛々:霧・ほこりなどが立ち込めるさま
干戈:武器、武力。戦争
奸計:悪だくみ
なかんずく:取り分けて。主に。その中でも。と同じ。たくさんの事柄の中から、特に1つを取り上げる様
蓋然性:事象が実現されるかどうか、またはその知識の確実性の度合い。確からしさ。
領袖(りょうしゅう):襟と袖。人を率いてその長となる人物
善後策:物事が終わった後にうまく処理するための方法。次善策は最善ではないけど最善の次にいいと思われる方法。
シラクーザ:シチリア島南東部の都市。町の建物が全体的に白め。
沈潜:推定に沈み隠れること。心を落ち着けて深く考えること。
結実:植物に身がなること。努力がいい結果となって現れること
慟哭:悲しみのあまり、声を上げて泣くこと
哀訴:同情を引くように、強く嘆き訴えること。
恭する(うやうやする):相手を敬って、礼儀正しく丁寧にする
胸空く:心の中のつかえがとれること
壮挙:壮大で意欲的な計画・その実現。〇〇の壮挙を成し遂げる。
ヘラクレスの柱:ジブラルタル海峡の入り口にある岬に着けられた古代の地名
奏効:力を尽くしてきた結果、効き目。奏功は仕事関係で使い、奏効は医療関係で主に使われる。(手術が奏効した)
出色(しゅっしょく):他より一段と優れていること、さま
深謀遠慮:先々のことまで考えた、深いはかりごと
帰趨:落ち着くところ。ゆきつくところ。帰結。
歯鰹(ハガツオ):カツオの仲間だが、カツオと違い頭が細長い。日本では安定的に獲れないそう。
酒肴(しゅこう):酒を飲むときに添える食品
怜悧:賢いこと。利口なこと。その様
あにはからん:豈図らんやとも書く。まったく思いがけないことが起こったという気持ち。
イビサ島:地中海西部にある島、夜景がすごいキレイ
二心:背こうとする心。疑いの心。
従前:今より前。「以前」が類義語だが、「以前」は「今」の時点を含めていない。
地歩:よって立つところ。立場や地位。
建白:上の立場の者に対して、自分の意見を申し立てること
重畳(ちょうじょう):幾重にも重なること。この上もなく満足なこと。
去就(きょしゅう):背き離れることと、付き従うこと。進退。
撥刺(はつらつ):元気、生き生きしている
仮借(かしゃく):許すこと、見逃すこと。借りること。「かしゃ」は別の意味となり、音はあるが感じがないものに何か字を当てることを言う。つまり当て字。
辺鄙:都会から離れて不便なこと、その様
一敗地に塗れる(いっぱい、ちにぬれる):再起できないほど、さんざんに負けること。
地に塗れるというのは、戦死したものの内臓が地面に散らばって泥にまみれるということ。そのくらいぼろ負けということ。